(2)第三章「国会ノ職権」 第四章「国会ノ開閉」 第五章「国憲ノ改正」について
国会の機能、権利について定めた第三章は32の条文があり、その規定の詳細さは「国民ノ権利」の章に匹敵しています。
国会は、国民を代理する者として、立法権を有する機関と位置づけられています。政府がもし憲法に違反するような法案を提出した場合には、その案を拒絶することができ(112条)、国帝に対しても憲法を遵守する宣誓を求めることができる(121条)というように、政府や国帝が憲法という基軸から逸脱しないようチェックする役割もはたしています。
また、国民に対して法律の主旨を説明する義務があり、議会の傍聴は基本的に許可されているので、国民に開かれた制度といえます。
さらに、第三章に、「国会ノ一部ニ於テ否拒シタル法案ハ同時ノ集会ニ於テ再ヒ提出スヲ得ス」(113条)、第四章に「各議院ノ集会ハ同時ニス可シ若シ其ノ一院集会シテ他ノ一院セサルトキハ国会ノ権利ヲ有セス」(147条)という条文があります。この規定は、一方の議院で否決された法案が、他方の議院で再提出されて可決することや、一方の議院が閉会中に、他方の議院が議決して法律を定めてしまうような、独走を避けるために設けられたものと考えられ、両議院のバランスを取っています。
第五章では、憲法改正についての規定があります。まず、国会とは別の特別会議によって審議されるもの(149条)であり、特別会議を召集するには両議院の3分の2以上の議決と国帝の許可が必要(150条)な上に、改正するにも特別会議のために選挙して選ばれた議員と元老議員の3分の2以上の議決と国帝の許可が必要(153条)と規定され、通常の法律案が民撰議院、元老議院両院の出席議員の過半数で成立することから考えると、憲法改正のハードルはとても高く設定されているといえます。
千葉卓三郎はその著作『王道論』で、王権にも民権にも「極」(極点)を設けて、「広ク会議ヲ興シ、万機公論ニ決」するような「大同」に従うことこそ王道であると主張し、君主の権利と人民の権利の調和の上に憲法を制定して国会を開設する立憲政体の実現を訴えています。
立法権の章でみられる国帝・国会・政府のバランスを重視した国家構想は、この調和論にのっとって構築されていると考えられます。
『五日市憲法草案とその起草者たち』 色川大吉編著 日本経済評論社 2015年