この篇は、第一章「民撰議院」、第二章「元老議院」、第三章「国会ノ職権」、第四章「国会ノ開閉」、第五章「国憲ノ改正」から成り、79条の条文で構成されています。この篇は草案内でもっとも条文数の多い篇になります。
(1)第一章「民撰議院」 第二章「元老議院」について
五日市憲法草案における国会は、「国帝」と、選挙によって選ばれる議員で構成される「民撰議院」と、国帝が任命する元老議官から成る「元老議院」で成り立っています。
民撰議院の被選挙人資格は30歳以上の男子で一定の国税を納入している者との条件がつき、人口20万人に1人の割合で選出されます(明治15年の人口は3,635万人で、この割合で考えると議員数は181人となります。平成27年の人口は1億2,536万人。衆参両院で議員数は722人です。17万3,000人ほどの人口に対し議員1人の計算になります)。
選挙人資格には一定額の財産所有者、国税納入者などの制約はないのですが、女性には参政権は認められていません。
民撰議院にのみ、租税に関しての法律を立案できる権利が与えられることが特徴的です。これは、生活に直接影響を与える事柄については、選挙によって選ばれる議員に託し、民意を反映させようとしているあらわれと考えられます。
また、民撰議院は国帝から発議された議案を修正できる権利を有し、国帝にも民撰議院の討議をストップすることはできないとされています(ただし、国帝は法案を成立させる際の最終採決権と緊急時の議会停止解散権を持っています)。
元老議院は11の資格順位の中から、国帝が任命する40名の議官で構成されます。
皇族、華族や大臣経験者などのほか、外交官や裁判官、「材徳興望アル者」(才能と人格を兼ね備えた人物)など、さまざまな人材を登用するように規定されています。
これは元老議院を一部の特権的な階級の出身者だけで構成しないで、立法、司法、行政の各府をはじめ広範なグループから議官を選出しようとする姿勢のあらわれと考えられます。
資格順位の第一位、第二位は民撰議院の議長、民撰議院の多数当選者と定められているところにも、選挙によって選ばれた人物を上位に置き、選挙人の意思を議会に反映させようとする試みが読みとれます。
『五日市憲法草案とその起草者たち』 色川大吉編著 日本経済評論社 2015年