五日市憲法草案 現代語訳 「第二篇 公法」(1)
第二篇 公法
第一章 国民の権利
- 次に掲げる者を日本国民とする。
- 日本国内に生まれた者
- 日本国外に生まれたが日本国人を父母とする子女
- 帰化の許状を得た外国人 ただし帰化した外国人が持つ権利については別の法律に定める。
- 次に掲げる者は、政治上の権利を受け入れ、用いることを停止する。
- 外形の無能(不治の病、重度の身体障害を持つ者) 心性の無能(精神疾患、重度の精神遅延の者)
- 禁獄もしくは流罪の審判を受けた者 ただし満期になれば権利剥奪は解除される。
- 次に掲げる者は、日本国民の権利を失う。
- 外国に帰化し、外国の籍に入った者
- 日本国帝の許可を得ずに外国の政府に官職、爵位、称号もしくは恩寵金を受けた者
- 日本国民は、一人ひとりの権利と自由を達成しなければならない。それを他の者が妨害してはならない。かつ、国の法律はこれを保護しなければならない。
- 日本国民は、憲法が定める一定の財産と智識のあるものは政治に参加し、可否の発言を行い、議論する権利を持つ。
- 日本国民はすべて、貴族・華族・士族・平民などの族籍や爵位などの階級にとらわれず、法律の下に平等の権利でなければならない。
- 日本国民はすべて、日本全国において同一の法律が適用され、同一の保護を受けなければならない。地方や家柄、個人や一族に対して特権を与えてはならない。
- 日本国内に居住、滞在している人々はすべて、日本人であるか外国人であるかは関係なく、その身体と生命と財産と名誉を保護される。
- 法律の内容は、その法律の制定以前にさかのぼって適用してはならない。
- 日本国民はすべて、法律の許す範囲内であれば、すべての場合においてあらかじめ検閲を受けることなく、自由に思想、意見、論説、図、絵を発表でき、出版して広めることができる。また、広く人々に対して講談、討論、演説を行ってその考えを公にすることができる。 ただし、その弊害防止のために定めた法律に違反した場合は、刑罰を受けなければならない
- 思想の自由権利を要因とする犯罪に関しては、法律に定めた時機と方式にしたがって裁かれなくてはならない。この犯罪については、法律に定める特例を除き、陪審員が罪の軽重を決める。
- 日本国民はすべて、法律に根拠のあることのほかは、強制的に何かに従事させられることや、強制的に何かを止めさせられることはあってはならない。
- 日本国民はすべて、集会の性質や数人の署名、あるいは一個人の資格であっても、法律に定める方式にしたがえば、皇帝(国帝)や国会、そのほかの国の機関に対して直接に奏呈請願または上書建白できる権利を持つ。 ただし、この権利を行使したことによって刑務所に拘禁されることや、刑罰の処分を受けることはあってはならない。もし政府の処置に関して、または国民相互の事に関して、そのほかどのようなことであっても、自分の考えでは道理にかなっていないと思うことがあれば、皇帝(国帝)、国会、またはほかの政府の機関に対して建白や請願を行うことができる。
- 日本国民はすべて、華族、士族、平民ともに、その才能に応じて国家の文官・武官の職に就く同等の権利を持つ。
- およそ日本国民は、どんな宗教であっても自由に信仰してよい。しかし政府は、国家の安定と各宗派の間の平和を保つために必要な処分をすることができる。ただし国家の法律に宗教性を帯びるものあれば、それは憲法ではない
- いかなる労働作業、工業、農耕であっても、行儀風俗や国民の安寧や健康を害するものでなければ禁止されることはない。
【現代語訳 注意事項】
- この現代語訳は、当館作成の「五日市憲法草案 書き起こし文」を訳したものである。そのため、原文で誤りと思われる文字については加筆訂正し、欠けている箇所には推定した文字を挿入した条文で現代語訳した。
- 原文には読点・句読点がないため、適宜付与した。
- 各篇各章の表示は、適宜割愛・追記などの修正を加えた。
- 「民撰議院」の「撰」の字は、「選」に改めた。
- この現代語訳は、これまで取り組まれた現代語訳を参考に作成したものであり、専門的な法知識・法解釈に基づくものではない。
【参考文献】
- 町田市立自由民権資料館 「『五日市憲法(草案)』の現代語訳」
- 山本泰弘公式サイト「政策屋POLICYA」内「1881現代語訳千葉卓三郎五日市憲法(日本帝国憲法)」(URL http://yamamotoyasuhiro.tsukuba.ch/e306001.html)
- 諸橋轍次『大漢和辞典』、大修館書店、1989-1990