五日市憲法草案 現代語訳 「第一篇 国帝」(2)
第一篇 国帝
第三章 国帝の権利
- 国帝の身体は神聖にして侵害することはできない。また、責任を負うべきところはない。
国政に関して、もし国帝が国民に対して過失があったときはその執務担当大臣のみが責任を負う。 - 国帝は、立法・行政・司法の3部門をとりまとめ、管理する。
- 国帝は、執政官(政治を行う役人・官吏)を自らの意思で任命し、免職できる。また、元老院の議官および裁判官を任命する。 ただし終身その官を失わない官吏には別の法律で定めた場合を除いて免職させることはできない。
- 国帝は、海陸軍の全体を監督し率いる。軍事に携わる官吏を任官し、軍隊を整備して必要に応じて軍隊を派遣することができる。 ただし軍隊内の昇級や免職、退役については法律で定めた規則にしたがって国帝がこれを決める。
- 国帝は、軍隊に号令して、この憲法に反する行為をさせることはできない。かつ、戦争がないときに臨時に兵隊を国内に配備させたい場合は、元老院と民選議院の承諾なくしては決して行えないものとする。
- 国帝は、貨幣を製造する権利を持つ。貨幣についての条例は別の法律でこれを定める。 ただし通貨を製造・改造し、自分の肖像を貨幣に入れることができる。
- 国帝は、爵位や貴族の位を与えることができ、かつ法律によってさまざまな勲章・栄誉を与え、また法律の範囲内で恩賜金を与えることができる。 ただし国の予算で恩賜金を与えるのであれば、国会の議決を得なければならない。
- 国帝は、何の義務も負うことがない外国の勲章などを受けることができる。国帝の承諾があれば皇族もこれを受けることができる。 ただし、いかなる場合でも国帝に仕える者は国帝の許可を得ないで外国の勲章や爵位や官職を受けることはできない。
- 日本人は、外国の貴族の称号を受けることはできない。
- 国帝は、特命を発して、すでに判決の出た刑事裁判の結果を破棄し、いずれの裁判所においても裁判をやり直させる権利を持つ。
- 国帝は、裁判官によって判決が下された罪人の刑罰を軽減・赦免する恩典を行う権利を持つ。
- 重罪の刑に処せられ、生涯公権を剥奪された者に対して、法律によって国会に意見を求め、可決を得て大赦や特赦、および罪を許し、公権を復権する裁決を行うことができる。
- 国帝は、全国の裁判を厳しく管理し、審理の進行を促す。また公務上:の罪を犯した者があった場合は、国帝の名においてその者を捕え、裁決を下すことができる。
- 司法の職にかかわる者が告訴されたときは、国帝はこれを聞き、参議院(いわゆる「上院」の意味。五日市憲法草案では元老議院を指すか)に意見を尋ねた後にその者を停職にすることができる。
- 国帝は、国会を開くよう求め、開会・閉会または会期を延期することができる。
- 国帝は、国益のために必要なときは国会を召集する時期でないときでも臨時に国会を召集することができる。
- 国帝は、法律案のほか、自ら適切と考える議案を国会に提出することができる。
- 国帝は、国会の議決を得ることなく、特権で外国との条約を結ぶことができる。 ただしその際に国家が何かを担保にしたり、国民生活に密接な関係のある条約(通商貿易など)を結ぶ場合であったり、または国費を使用したりもしくは国境、所属地の一部を譲与したり改変したりする条約の締結や修正をする際は国会の承諾を得なければ効力を持たない。
- 国帝は、戦争の開始を宣言し、講和を結び、そのほかの交際・修好・同盟などの条約を締結する。ただし即時にそのことを国会に通知しなければならない。かつ国家の利益や安寧に密接に関係すると考えられることも同じように国会の両院に照会する。
- 国帝は、外国との書類の作成や整理などの作業全般を取りまとめる。外国に派遣する使節や大使および領事を任免する。
- 国帝は、国会より上奏された議案を決定する。
- 国帝は、国会が定めた議案および議決の採否を決め、これに押印し、立法全権に属するところのすべての職務について最終の裁決を行い、法律を成立させて公布しなければならない。
- 国帝は、外国の兵隊が日本国に入ることを許すこと、また皇太子のために王位を退くことの2カ条については特別の法律により国会の承諾を得なければ効力を持たない。
- 国帝は、国家の安定のために必要な時機においては、同時に、または別々に、国会の両院を停止解散する権利を持つ。 ただし解散の布告と同時に40日以内に新議員を選挙し、2カ月以内に議院の召集を命じなければならない。
【現代語訳 注意事項】
- この現代語訳は、当館作成の「五日市憲法草案 書き起こし文」を訳したものである。そのため、原文で誤りと思われる文字については加筆訂正し、欠けている箇所には推定した文字を挿入した条文で現代語訳した。
- 原文には読点・句読点がないため、適宜付与した。
- 各篇各章の表示は、適宜割愛・追記などの修正を加えた。
- 「民撰議院」の「撰」の字は、「選」に改めた。
- この現代語訳は、これまで取り組まれた現代語訳を参考に作成したものであり、専門的な法知識・法解釈に基づくものではない。
【参考文献】
- 町田市立自由民権資料館 「『五日市憲法(草案)』の現代語訳」
- 山本泰弘公式サイト「政策屋POLICYA」内「1881現代語訳千葉卓三郎五日市憲法(日本帝国憲法)」(URL http://yamamotoyasuhiro.tsukuba.ch/e306001.html)
- 諸橋轍次『大漢和辞典』、大修館書店、1989-1990