五日市憲法草案 現代語訳 「第五篇 司法権」
第五篇 〔司法権〕
第一章 司法権
- 司法権は、国帝が総括する。
- 司法権は、何ものからも制約を受けず、独立している。法典の定める時機と、司法の規程にしたがって、民事ならびに刑事事件を審理する裁判官・判事および陪審官が執行する。
- 大審院、上等裁判所、下等裁判所などを設ける。
- 民法、商法、刑法、訴訟法、治罪法、山林法、および司法官の構成は、全国同一とする。
- 上等裁判所・下等裁判所の設置数とその種類、各裁判所の構成と権利と任務、その権利と任務を執行する方法、および裁判官に属する権利などは法律で定める。
- 私有権および私有権から生じた権利、負債など、国民の権利の管轄となる訴訟を審理するのは、特に司法権に属する。
- 裁判所は、上等・下等のいずれにおいても廃止・改組することはできない。また、裁判所の構成や制度は法律によらなければ変更することはできない。
- 裁判官は、すべて国帝より任命される。判事は終身職とする。陪審官は訴訟事件の事実について真偽を明らかにし、裁判官は法律をふまえ、それぞれの裁判は裁判所長の名前で行われ、判決が宣告される。
- 郡裁判所以外の裁判所では、国帝が任じ、3年間在職した裁判官は、法律で定める場合をのぞいては、異動や解任はできない。
- 裁判官はすべて、法律に違犯したときは各自の責任となる。
- 裁判官はすべて、自らが犯した犯罪についての裁判を受ける場合のほかは、有期もしくは無期の期間、その職を奪われることはない。また、司法官の決裁(裁判所議長もしくは上等裁判所の決裁などをいう)をもってか、または充分な理由のある国帝の命令で、証拠のある罪状を持つ裁判官をその所属する裁判所に訴える場合をのぞいて、裁判官の職を停止することはできない。
- 軍事裁判および護卿兵(近衛兵・護衛兵)裁判については、法律で定める。
- 租税に関しての訴訟や不服の申し立て、および命令に違反したものの裁判も、同じように法律で定める。
- 法律に定める場合を除いて、審理・裁判を行うために、例外的にも臨時的にも法律に関わる機関を設けることはできない。いかなる場合であっても臨時もしくは特別な裁判所を開き、検察官を立て、裁判官を任命して罪を裁くことをしてはならない。
- 現行犯の犯罪を除き、その犯罪を取り扱う機関より出された命令書を根拠としなければ、逮捕することはできない。もし恣意的に逮捕することあれば、命令を発した裁判官および、命令を請求した者を法律に掲げた刑に処さなければならない。
- 罰金および禁錮の刑を審理される犯罪者は、刑罰が確定するまでの間に、身柄を拘束しておくことができない。
- 裁判官は、管轄内の訴訟を聴取して判決を下さずに、他の裁判所に訴訟を移すことはできない。この理由によって特別な裁判所を設置することと、専従職員を配置することはできない。
- いかなる人も、自らの意思に逆らって、法律をもって定められた正当な判事・裁判官から引き離されることはない。この理由によって臨時裁判所を設立することはできない。
- 民事裁判・刑事裁判において法律を執行する権限は、上等裁判所・下等裁判所に属する。しかし上等・下等裁判所は判決を下すことおよび判決が実行されることを見守るほかに、他の役目を行うことはできない。
- 刑事事件においては、証人を取り調べ、すべての罪が明らかにしたあと、訴訟手続きを公のもとに行わなければならない。
- 司法権と行政権との間に生じる権限の衝突や矛盾などの裁判については、法律で規定する。
- 司法権は、法律に定める特例を除き、政治権力に関する訴訟・申し立てを審理する。
- 民事裁判、刑事裁判とも裁判所の法廷は(法律で定められた場合のほかは)、法律に定められた規程にしたがい、必ず公のもとに行わなければならない。
ただし、国家の安寧および風紀に関わることで法律に定められた特例については、この限りではない。 - 裁判はすべて、その理由を説明し、法廷を公開して判決を宣告しなければならない。刑事事件の裁判はその判決の根拠となる法律の条項を提示し、記録しなければならない。
- 政治犯であることで死刑を宣告してはならない。またその罪の事実は陪審官が判定しなければならない。
- すべての著述出版の犯罪の量刑については、法律で定めた特例のほかは陪審官が判定する。
- すべての法律で定められた重罪は、何の罪が重罪に当たるかを陪審官が判定する。
- 法律に定める場合を除いては、いかなる人であっても逮捕する理由を掲示する判事の命令がなければ逮捕・拘束してはならない。
- 法律は、判事の命令の規則および判事が犯罪者の訴追に従事できる期限を定める。
- いかなる人であっても、法律で職権が認められて行う場合や、法律で定められた規程によって行う場合のほかは、家主の意志に反して家屋に浸入することはできない。
- いかなる罪があっても、犯罪者の財産を没収してはならない。
- 郵便もしくはほかの運送を司る機関に託された信書の秘密は、法律で定める場合で、判事より特別の許可がある場合を除いては、絶対に侵害してはならない。
- 要塞の建設、堤防の構築・補修のためおよび伝染病そのほか緊急の状況に際して、前文(203条のこと。条文の前後を間違えている。)に掲げた公布が必要なくても没収ができる場合は、一般の法律で定める。
- 法律は、あらかじめ公益のために財産の没収が必要とすることを公布しなければならない。
- 公益の理由での財産没収の公布および没収財産の事前賠償は、戦時・火災・水害に際し即時に没収が必要となった場合は、要求することはできない。しかし、没収された者が没収の補償を請求する権利は侵害されない。
【現代語訳 注意事項】
- この現代語訳は、当館作成の「五日市憲法草案 書き起こし文」を訳したものである。そのため、原文で誤りと思われる文字については加筆訂正し、欠けている箇所には推定した文字を挿入した条文で現代語訳した。
- 原文には読点・句読点がないため、適宜付与した。
- 各篇各章の表示は、適宜割愛・追記などの修正を加えた。
- 「民撰議院」の「撰」の字は、「選」に改めた。
- この現代語訳は、これまで取り組まれた現代語訳を参考に作成したものであり、専門的な法知識・法解釈に基づくものではない。
【参考文献】
- 町田市立自由民権資料館 「『五日市憲法(草案)』の現代語訳」
- 山本泰弘公式サイト「政策屋POLICYA」内「1881現代語訳千葉卓三郎五日市憲法(日本帝国憲法)」(URL http://yamamotoyasuhiro.tsukuba.ch/e306001.html)
- 諸橋轍次『大漢和辞典』、大修館書店、1989-1990