この篇は、第一章「行政権」から成り、13の条文で構成されています。他の篇と比べると条文数が少ない篇といえます。
五日市憲法草案に議院内閣制(内閣が国会の信任の上に成り立つ制度)が採用されていることは、「行政官ハ執行スル所ノ政務ニ関シ議院ニ対シテ其責ニ任スル者トス若シ其政務ニ就キ議院ノ信ヲ失スル時ハ其職ヲ辞ス可シ」(165条)の規定からわかります。 行政機構は、太政大臣と12の省の長官(○○卿)による「行政官」と、行政官で組織される「内閣」で構成されています(158条、159条、163条)。
また、行政官は、国帝の監督下におかれ、国帝の命令にもとづき政務を執行することと位置づけられ(157条、164条)、もし国帝が国民に対して過失があった場合には、行政官(第一篇の条文では執政大臣)が責任を負う立場にあります(第一篇「国帝」18条)。
行政権の行使については、内閣が政策検討を行い、各省の長官が担当する政務を執行することとしています(159条)。
また、行政官には毎年、議会に対して予算案の提出と決算書の報告が義務付けられています(168条、169条)。
第四篇の条文は、嚶鳴社草案の行政権の条文をなぞったものが多いのですが、嚶鳴社草案にないオリジナルの2条文は五日市憲法草案らしさがうかがえます。 「諸般ノ布告ハ太政大臣ノ名ヲ署シ当該ノ諸省長官之ニ副署ス」(160条)「行政官ハ両議院ノ議員ヲ兼任スルヲ得(167条)」 160条については各省の大臣が勝手な布告ができないよう、手続き上のチェックがかけられているように読めます。
また、167条のように、大臣と議員の兼務が可能というのは現代と同じです。大臣を特権階級出身者だけで占めるのではなく、民撰議院の議員からも大臣へ就任できる道を開いている条文と考えられます。
『五日市憲法草案とその起草者たち』 色川大吉編著 日本経済評論社 2015年